空間オミクス解析②:解析用ライブラリについて
空間オミクス解析のライブラリ
シングルセル解析が普及した背景はChromiumの様な商用の解析装置がリリースされたことに加えて、SeuratやScanpyなどの解析用ライブラリが整備されたことが大きい。これらのライブラリに付属するマニュアルを追いかけさえすれば、複雑なプログラムを実装せずに、主要な解析はほとんど実行することができる。
シングルセル解析が一般的なものになっていく中で、いま成熟し始めているのは前回のエントリーで触れた空間オミクス解析だと思う。Human Cell AtlasやHuman Tumor Atlas Networkで位置情報付きのオミクスデータが取得されていることを鑑みると、今後身近なデータになっていくことは間違いない。
そこで空間オミクスの解析用ライブラリについて調べてみるといくつか見つかった。*1
- Seurat: https://satijalab.org/seurat/
- Scanpy: https://scanpy-tutorials.readthedocs.io/
- STUtility: https://ludvigla.github.io/STUtility_web_site/index.html
- Spaniel: https://github.com/RachelQueen1/Spaniel
- Giotto: http://spatialgiotto.rc.fas.harvard.edu/
Seurat/Scanpy
シングルセル解析でお馴染みのSeuratとScanpyであるが空間オミクス解析のための機能もいくつか実装されている。両ツールでできることはほぼ同じ。シングルセル解析の延長上で空間オミクスデータを扱うことができ、データ前処理・次元圧縮・クラスタリングにはscRNA-seqで使われている手法・関数を使用する。発現解析にはSpatialDEやTrendseekの様な特定の空間で発現上昇・低下している遺伝子を抽出する手法が実装されている。基本的にはVisiumのデータに向けて開発が進められているらしく、その他の手法で得られた空間オミクスデータに対してはまだ機能が不十分な印象を受ける。
- データ前処理(QC・正規化)
- 次元圧縮・クラスタリング
- 空間的発現変動遺伝子の抽出
- 可視化(病理画像上への発現情報の投影)
scanpy-tutorials.readthedocs.io
STUtility
Spatial transcriptome (ST) の開発者であるJoakim Lundebergらのグループが開発した空間オミクス解析用のライブラリ。VisiumやSTのデータに向けて開発されている。複数の切片を組み合わせて3Dデータを作る際に画像間のアラインメントをするための機能や、画像のアノテーションをインタラクティブに行うための機能が実装されている。
引用元:Bergenstrahle et al. “Seamless integration of image and molecular analysis for spatial transcriptomics workflows” BMC Genomics. 2020. doi:10.1186/s12864-020-06832-3 CC-BY 4.0
Giotto
MERFISH等の開発に関わるGuo-Chen Yuanらのグループが開発した空間オミクス解析用のRライブラリ。Visium以外の様々な種類の空間オミクスデータや、2Dだけでなく3Dの空間データ*2にも対応していることが特徴。
データ前処理(QC・正規化)
次元圧縮・クラスタリング
- 空間的発現変動遺伝子の抽出
- 可視化(病理画像上への発現情報の投影)
- 共発現解析(同じ空間で発現する傾向にある遺伝子モジュールの同定)
- 細胞間相互作用解析(e.g. 近傍に存在する細胞種のペアを探索、周辺にいる細胞が発現に与える影響を解析)
引用元:Dries et al. “Giotto, a toolbox for integrative analysis and visualization of spatial expression data” bioRxiv. 2020. doi:10.1101/701680 CC-BY 4.0
Giotto viewerというインタラクティブな可視化ツールも合わせて公開している。特に3Dデータの可視化は難しいので、このようなツールが用意されていることもユーザーとしてはありがたい。
Giottoの機能を著者らが説明したウェビナーの動画も公開されている。
まとめ
シングルセル解析におけるSeurat/Scanpyのようなツールが空間オミクス解析の領域でも現れつつある印象を受けた。空間オミクス解析は機械学習と相性が良いと思うのでPythonで扱えるライブラリも欲しい。